これらのホテルは「広さ」や「スケール」をさまざまな形で巧みに扱っています。たとえば、あえて規模を小さくして、13室だけの修道院や、広い湖に点在する少数のヴィラ、20人未満しか乗れない船のように、静かで特別感のある空間をつくっているホテルがあります。一方で、視界の広がりを活かして、どこまでも続く地平線や海、遠くまで見渡せる景色、高層からの都市の眺めなど、「広がり」を感じさせるホテルも。
こうした工夫によって、こぢんまりとして落ち着けるのに窮屈さはなく、また広々としていてもただ大きいだけではない、バランスのとれた滞在が生まれています。
ドロミテの山々やインド洋、満天の星空が見えるダークスカイ保護区、マイアミのスカイラインなどを眺めながら、これらの場所では普段とは違う視点を得て、自然や街とのつながりをより強く感じられます。
1.マウント・クック・レイクサイド・リトリート(ニュージーランド、プカキ湖)
プカキ湖を見下ろす広い私有地に点在するマウント・クック・レイクサイド・リトリートは、ひとつの大きなホテルというより、小さな隠れ家が集まったような場所です。遠くにはアオラキ/マウント・クックがはっきりと見え、その存在感が印象的です。
それぞれのヴィラは、ほかのゲストを気にせず過ごせるよう離して配置されていて、景色を存分に楽しめるつくりです。大きな窓に向かって置かれたレザーソファ、ゆっくりと夜を過ごすための暖炉、そして夜でも山を眺められるように設計されたホットタブなど、どこにいても自然を感じられる工夫がされています。
この場所の魅力は、何よりもその自然環境です。湖の色は氷河のような青から銀色へと変化し、風は草原や木々の間を抜けていきます。そして夜になると、思わず見上げてしまうほど澄んだ星空が広がるでしょう。
このリトリートは、世界でも有数の星空保護区であるアオラキ・マッケンジー・ダークスカイ・リザーブの中にあり、星の集まりまではっきり見えるほど空気が澄んでいます。条件が良ければ、南半球のオーロラ(オーロラ・オーストラリス)が、淡い緑色の光として地平線に現れることも。
ここでは星空体験もとても大切にされていて、専用の天文台を利用したり、ガイド付きで星を観察したり、星空の下で食事を楽しんだりできます。料理は地元の食材を中心に、旬のものや自家採取した素材を使い、シンプルで丁寧に仕上げられています。


2.ニーヴァ・ラブリズ・セイシェル(セーシェル)
ニーヴァ・ラブリズ・セイシェルは、インド洋に浮かぶシルエット島の中でも、比較的アクセスしやすい立地です。島は花崗岩の岩肌と深い森に覆われ、海から急に立ち上がるような地形が特徴で、自然保護のため開発は厳しく制限されています。
リゾートは海岸線に沿って広がっていて、長く続く白いビーチ沿いと、少し内陸に入った密林の中にヴィラが点在しています。道や動き方も、いかにもリゾートらしく演出されたものではなく、自然な流れで使いやすい設計です。
ビーチフロントのヴィラは、砂浜や遠浅の海にそのまま出られる開放的なつくりです。一方でガーデンヴィラは海の景色は見えないものの、木陰や静けさに包まれ、よりプライベートで落ち着いた時間を過ごせます。室内は現代的でシンプルにまとめられていて、装飾よりも広さや風通しの良さ、外とのつながりが大切にされています。
島全体が海洋公園に指定されているため、すぐ近くのサンゴ礁(ハウスリーフ)はとても魅力的で、シュノーケリングやダイビングではウミガメに出会えることも珍しくありません。内陸に進めば、さらに深い森へと続くトレイルがあり、島の広がりや自然のスケールを体感できます。
食事は8つのレストランに分かれていて、気軽に楽しめるグリル料理から、少し特別感のある食事まで、その日の気分に合わせて選べます。裸足で過ごせるようなリラックスした雰囲気と、しっかりとした食体験の両方が共存。スパのトリートメントルームからは熱帯の緑が見え、インフィニティプールも海と一体になるように設計されています。
3.バディア・ディ・ポマイオ(イタリア、トスカーナ)
アレッツォの高台にあるバディア・ディ・ポマイオは、日常から少し離れて過ごす心地よさを、静かに感じさせてくれる場所です。もともとは17世紀の修道院で、厚い石の壁やアーチ状の天井、回廊など、当時の落ち着いた雰囲気が今も残っています。
改装はあえてシンプルに抑えられていて、淡い色のリネンやすっきりとした家具、自然な木の素材が使われています。華やかな装飾に頼るのではなく、光の入り方や空間の広がりそのものが魅力になるように工夫されています。
客室はわずか13室だけ。オリーブ畑やゆるやかな谷の風景、遠くに広がるアレッツォの街並みを眺めながら、静かで落ち着いた時間を過ごせます。インフィニティプールは丘の斜面に浮かぶようにつくられていて、まるで景色の中に溶け込むような感覚です。敷地内の菜園やワインセラーも、この土地とのつながりを感じさせてくれます。
レストラン「カンポ・バディア」では、季節や食材を大切にした料理が提供されます。手打ちパスタや自家栽培の野菜、じっくり火を入れた肉料理など、時間をかけて丁寧につくられたものばかりです。
かつて修道士たちがこの場所で求めていた静けさや内省の時間は、今のゲストにも自然と訪れます。ただし今は、上質なワインとともに楽しめて、特別な誓いを立てる必要もありません。


4.ホテル・サルタス(イタリア、ドロミテ)
イェネージエンの村の上、トウヒの森が広がる急斜面に建つホテル・サルタスは、目の前にドロミテ山脈を望む、開放感あふれるロケーションです。視界を遮るものはほとんどなく、空と山がそのまま広がるような感覚を味わえるでしょう。
客室にはラーチ材や粘土、石といった自然素材が使われ、色合いも落ち着いたトーンでまとめられています。そのため、室内の装飾よりも、差し込む光や天候の変化、木々の揺れといった自然の表情が主役になります。
スカイプールは、ちょうど木々の高さに浮かぶように設計されていて、まるで森の中に溶け込んでいるかのようです。山の冷たい空気の中でも水は温かく保たれており、空を流れる雲の動きをゆったりと眺められます。
食事は、南チロルの伝統をベースにしながら、イタリア料理の技法を取り入れたスタイル。山で採れるハーブや乳製品、野菜、ジビエなどを丁寧に調理し、地元のワインやビールとともに楽しめます。
またこのホテルは、環境への配慮にも力を入れているのも特徴です。再生可能エネルギーのみで運営されているほか、湧き水をボトリングして使用したり、客室にテレビを置かない、夜間はWi-Fiをオフにするなど、自然と調和した滞在を大切にしています。
森の中にあるスパへは歩いて向かい、サウナやガラス張りの休憩室、屋外プールからゆっくり景色を楽しめます。体を休めたあとも、その風景の余韻が心に残り続けるような場所です。


5.スノーペン・ロッジ(アメリカ、ユタ州)
リトル・コットンウッド・キャニオンの斜面に建つスノーペン・ロッジは、スキー場にそのままつながる便利な立地が魅力のホテルです。アルタ・スキーエリアと同じ山にあり、外に出て少し滑り出すだけで、軽くて乾いたパウダースノーや急斜面、長く続くコースを楽しめます。
館内は、温かみと居心地のよさを大切にしたつくり。二段ベッドのあるカジュアルな部屋から、ゲレンデに面したスイート、天井が高くバスタブ付きのペントハウスまで、さまざまなタイプの客室があります。どの部屋からも、松林やワサッチ山脈の鋭い山並みを眺められます。
レストラン「スウェンズ」ではオープンキッチンで調理される、寒い日にぴったりのしっかりとした料理が楽しめるでしょう。また「ガルチ・パブ」はアフタースキーでにぎわう、気軽に立ち寄れる場所です。
スティルウェル・スパでは、ディープティッシュマッサージや水を使ったトリートメントなど、高地での疲れを癒やすためのプログラムが用意されています。
雪の季節が終わったあとも、この場所の魅力は変わりません。周囲にはトレイルや高山植物が広がり、ロッジは自然と夏の表情へと移り変わっていきます。
6.ザ・イン・アット・ランチョ・サンタ・フェ(アメリカ、カリフォルニア州)
サンディエゴの北、ゆるやかな丘や柑橘の果樹園に囲まれた「ザ・イン・アット・ランチョ・サンタ・フェ」は、海に近い場所にありながら、あえてにぎやかさから少し距離を置いた、落ち着いた雰囲気のホテルです。
建物はスペイン風のカリフォルニア様式で、白い塗り壁や赤い瓦屋根、日陰のある中庭が印象的。インテリアはオリーブグリーンや温かみのあるニュートラルカラーでまとめられていて、現代的でありながらも、昔ながらの空気感を大切にしています。
滞在中は、さりげない楽しみがいくつも用意されています。ラティスやラウンジャーに囲まれた塩水プールでのんびり過ごしたり、実際に使えるピックルボールコートで体を動かしたり、朝の涼しい時間に屋外ヨガに参加したりと、自然なリズムで時間を過ごせるでしょう。
レストラン「リリアンズ」では、季節の食材を大切にしたカリフォルニア料理が楽しめます。また「ビングズ・バー」は、落ち着いた照明と木の質感に包まれた空間で、ゆっくり会話を楽しみながらカクテルを味わえる場所です。
客室は、大理石のバスルームを備えた洗練された部屋から、暖炉や専用パティオ付きのバンガローまでさまざま。どの部屋も、静かにくつろげるような心地よさを大切にしたつくりになっています。


7.ザ・グレイソン・マイアミ(アメリカ、フロリダ州)
ビスケーン・ブールバード沿いに建つ「ザ・グレイソン・マイアミ」は、街の今のにぎわいやエネルギーをそのまま感じられるホテル。目の前には湾が広がり、少し歩けばクリエイティブな地区にもアクセスできる、便利なロケーションです。
建物はガラスを多用したモダンな高層ホテルで、客室もシンプルで落ち着いたデザイン。床から天井までの大きな窓や抽象的なアートが印象的で、ダウンタウンの高層ビル群から海まで見渡せる開放的な景色が楽しめます。
バルコニー付きのスイートでは、夕暮れとともに変わっていく空の色をゆっくり眺められます。また、屋上プールが見える客室では、リラックスした空気の中に少しだけ華やかさも感じられるでしょう。
周辺には美術館やコンサートホールなどの文化施設が集まっていて、街歩きも楽しみのひとつ。夜になると、人々は「ベラズ・ルーフトップバー」に集まり、湾の景色を眺めながら、気軽にカクテルを楽しみます。
レストランはシンプルで現代的なスタイル、スパやジムも使いやすく整えられています。このホテルは、静かに離れて過ごす場所というよりも、マイアミの街を思いきり楽しむための拠点としてぴったりの場所です。
8.エルメス・ガラパゴス・カタマラン(エクアドル、ガラパゴス諸島)エルメス・ガラパゴス・カタマランでの旅は、ガラパゴスのスケールの大きさを、より身近に感じさせてくれます。広がる火山の地形や外洋の自然を、20名未満のゲストとほぼ同じ人数の乗組員とともに、ゆったりと体験可能です。
スイートルームは広々としていて、落ち着いた色合いでまとめられています。床から天井までの大きな窓や専用バルコニーがあり、太平洋を目の前に望むジャグジーも完備。ふと外を見ると、グンカンドリやアホウドリが同じ目線の高さで飛んでいくこともあります。
日中は、認定ナチュラリストガイドが案内する少人数ツアーに参加。溶岩の大地を歩いたり、アシカやペンギンと一緒にシュノーケリングをしたり、ガラス底ボートで海の中を観察したりと、自然を間近に感じられる体験が中心です。
アクティビティのあとは、まるでプライベートな邸宅のような船に戻ってゆっくり過ごすひとときです。船内ではエクアドルの食材を使った料理が提供され、ダイニングルームでもデッキでも楽しめます。
空いた時間には、スパや図書室でくつろいだり、サンデッキのジャグジーで海を眺めたりと、それぞれのペースで過ごせます。周囲には島々が静かに流れていき、時間の感覚もゆるやかに変わっていくでしょう。
この旅の魅力は、野生動物との距離の近さを保ちながらも、ゆとりある空間やプライバシー、そして自分のペースを大切にできるところにあります。

