オリーブ畑の香りが風に乗り、蝉の声が時の流れを刻む日差しきらめく村、アラチャトゥ。その地に佇むケステルインは「魂に導かれたおもてなし」を静かに体現する存在です。ここは、一つの家族が紡いだビジョンが、歴史と文化、そして暮らしの温もりを幾重にも重ねて形となったホテル。その佇まいには、長い時間を経て醸成されてきた美しさが息づいています。

ケステッリ家は単なるオーナーではありません。このホテルの建築家であり、守り手であり、そして物語の語り部でもあります。舵を取るのはイスィンス・ケステッリ。直感的なリーダーシップとエーゲ海地方に深く根差した彼女の感性が、このホテルに揺るぎない優雅さを与えています。夫のジャン・ケステッリは、この場所の風景を形づくることに力を注ぎました。彼が植えた一本目のオリーブの木は、いまやホテルの永続的な精神を象徴する存在となっています。エーゲ海にちなんで名付けられた息子のウグル・エゲ・ケステッリは、名ばかりの存在ではありません。ゲストと朝食を囲みながら幼い頃の思い出を語ったり、このトルコの農園ホテルが纏う素朴な雰囲気づくりを手伝ったりと、日々、この場所の一部として息づいています。

ホテルオーナーとして「独立した精神」を持つことは、あなたにとってどのような意味がありますか?

私たちにとって、独立した精神とは、心の声に耳を澄ませること。その声こそが、ケステルインを生み出した原動力です。愛する土地に敬意を払い、このアラチャトゥという場所に永く受け継がれる何かを加えていくこと。アラチャトゥは、19世紀に近隣の島々から運ばれた石で築かれた村ですが、私たちは既存の型に従うことなく、あくまで「感じるままに」歩みを進めてきました。目に見えるものだけではなく、触れることもできない、しかし確かに存在する感覚。それが私たちの道しるべです。

このホテルは図面から始まったわけではありません。時間をかけて迎え入れた家々が積み重なり、物語のように紡がれてきた場所です。それぞれの家には魂が宿っていました。その中には、アラチャトゥという土地そのものを思い起こさせる女性が暮らしていた家もあります。私たちは彼女が生きている間は、その家に手を加えないことを約束しました。その約束と彼女の気品は、今もなおこの建物を訪れた人が感じ取る空気の中に息づいています。

独立した精神とは、誰かの指示ではなく、自分の直感に従う勇気を持つことでもあります。それによって私たちは、自分たちの価値観やこの土地への愛着、そしてこの宿にふさわしいリズムをもつ場所を創り出せたのです。外資系のホテルチェーンとは違い、私たちはこの宿のすみずみまで知っています。そして、訪れるゲストはその物語の一部になるのです。ここで出会うのは、ただのコンシェルジュではありません。家族そのものです。息子のエゲと朝食を囲めば、彼の名そのものが、私たちのこの土地への愛の証であることを感じ取っていただけるでしょう。また、この場所を形づくってきた職人たちや建築家の息づかいも、確かにここに残っています。

魂を宿した場所は、訪れた瞬間にわかるものです。ゲストが体験するのは客室だけではありません。一つの暮らし方そのものです。温かな挨拶、手書きのメッセージ、家族の農園で作られたヨーグルトやバターが並ぶ朝食、どのディテールにも意味があります。これは単なるホスピタリティではなく、一つの哲学です。ここでは、旅人として通り過ぎる存在ではなく「記憶される存在」になります。

ケステルインは、私たちの情熱(アート、自然、そして時代に左右されないシンプルな美しさ)の結晶です。私たちの個人コレクションから選び抜かれたアートワーク、静けさに満ちた中庭、どの角度にも宿るストーリー。最初のオリーブの木は夫のジャンが植え、最初の大木は息子のエゲが植え、今も増え続けるサボテンの庭には、それぞれの植物にまつわる記憶が息づいています。

ホテルの着想はどこから生まれ、今はどこからインスピレーションを得ていますか?

ケステルインが生まれたのは、アラチャトゥがもつ静かな魂(ゆっくりとした時間の流れと、石造りの壁が語る物語)を守り、讃えたいという願いからでした。年月をかけて、歴史ある家々を愛情を込めて修復しながら、ホテルは形になっていきました。設計を手がけたのは、建築家かつ芸術家でもあるハカン・エゼル。彼のビジョンは、土地特有の個性と普遍的な優雅さを兼ね備え、ホテルをひとつの調和ある世界へと昇華させました。

建築だけでなく、素材の質感、中庭の配置、空間のレイアウトにいたるまで、この土地への深い敬意が宿っています。ケステルインは、世界のどこにも成立し得ない特別な場所。ここはアラチャトゥに属する場所です。

私たちは、エーゲ海のシンプルさや移ろう季節、そして滞在するゲストたちが残す痕跡(記憶の中だけでなく、この場所の空気の中にも)からインスピレーションを受け続けています。そして私たちがいまもインスピレーションを受け続けているのは、エーゲ海の素朴さ、季節の移ろい、そしてこの宿を訪れ、痕跡を残してくれるゲストたちです。記憶としてだけでなく、この場所の雰囲気の一部として。訪れる人ひとりひとりが何かを残し、ホテルを少しずつ豊かに、生き生きと成長していきます。ここでは、職人の手から建築家の意匠まで、この空間を形づくった人々や手のぬくもりのすべてが息づいており、滞在中、きっと感じることでしょう。

ケステルインは他のブティックホテルとどのように異なると思いますか?

ケステルインが本当に特別なのは、遺産建築や精緻に選ばれたデザインだけではなく、ここで生まれる感情そのものです。静かなエネルギーに満ちており、ゲストの多くは思いがけない落ち着きや、本物の「家にいるような感覚」を味わったと語ります。まるでこの空間が彼らを覚えているかのような感覚です。この感覚は偶然ではなく、意図的に作られているのです。私たちは、真のラグジュアリーは見せかけではなく、深く個人的で魂に響き、言葉にしなくても伝わるものだと考えています。

ケステルインでは、あらゆる要素が感覚にやさしく触れるよう設計されています。朝、石壁に差し込む光の揺らぎ、夜明けの中庭の静けさ、柔らかなリネンの肌触り、夕食後の静寂。その静かで、長く残る控えめで誠実、そして忘れがたい印象こそが私たちのシグネチャーです。

もし滞在が24時間しかなかったら、ゲストに何をおすすめしますか?

朝は中庭のオリーブの木の下で朝食を楽しんでください。地元のチーズ、温かいペストリー、シグネチャーのアーモンドケーキ、そして家族の農場で作ったヨーグルトとバターを揃えています。

その後は近くの自然保護区へ散歩に出かけるか、オリーブ畑を訪れてみてください。午後は、陽の光が差し込む客室で過ごすか、庭でカクテルをゆったり楽しむのもおすすめです。

夕方には、私たちのプライベートファームで、星空の下でゆったりとろうそくの灯りだけでいただくスローディナーをお楽しみください。その日の朝に収穫したばかりの食材で作る料理は、五感すべてに染み入ります。夜はテラスで星空を眺めながら静寂の中で過ごし、エーゲ海の空気を全身で感じてください。

あなたにとっての完璧なラグジュアリー体験とは?

完璧なラグジュアリーとは、静かで自己主張しないものです。大きな声でアピールするのではなく、そっと寄り添うもの。鳥のさえずりで目覚め、思いがけず心に残る朝食に驚き、敷地全体の静けさに深い安心を覚える。干渉されることなく、しかししっかりと気遣いがある、そんなケアを受けることです。真のラグジュアリーは演出ではなく、感情に深く響くものです。

ホテルの将来に対するビジョンはありますか?

私たちは、ケステルインを単なる宿泊施設ではなく、感じ、振り返り、つながる場所として位置づけています。私たちの夢は、文化、持続可能性、そして感情が融合する聖域のような空間に発展させることです。親密なアートの集い、オヴァジュク農園でのゆっくりとした食事会、そして自然と調和したウェルネスの週末。そんな時間をご提供したいと願っています。規模を大きくするのではなく、魂を深めることを目指しています。季節ごと、ゲストごと、共有される物語ごとに、ホテルはより深く、より多くの記憶と意味を宿すことを望んでいます。私たちが築いているのは単なるホスピタリティではなく、静寂、美、そしてつながりの静かな遺産です。将来、広がるのは建物の壁ではなく、この場所に刻まれる体験そのものです。