旅先リストを作るのはもはや定番ですが、時にはその発想を逆転させてみませんか? つまり、いつもとは逆の発想で、「このホテルに泊まるために旅をする」という計画を立ててみませんか?
旅の拠点としてだけでなく、それ自体が目的地となるような特別なホテル。そんなホテル中心の休日は、ある程度は立地も大切ですが、それ以上に「そのホテルでしか味わえない体験」がカギになります。たとえば、スキーチャレットは世界中に数多くありますが、山脈の最高峰に建つ宿はいくつあるでしょうか?
サハラ砂漠を探検し、星空の下で眠る体験から、スウェーデンのタウンハウスでシェフと次の食事の計画を立てる体験まで、パーソナライズされたローカル体験も、目的地型ホテルの魅力のひとつです。
ここから紹介する「ファイネスト・コレクション」は、ホテルの外の世界にまで魅力が広がっている宿ばかり。世界中の憧れのロケーションに佇み、それぞれが唯一無二の体験を提供してくれます。どの滞在も、他では味わえない特別なものになることでしょう。
ダール・アラムの扉の向こうに広がる魔法のような世界をほのめかすものがあるとすれば、それはその名前に込められたアラビア語の意味。「夢の家」という名は、このサハラ砂漠の縁に佇む、あらゆる常識をくつがえすカスバ(城塞)にぴったりの表現です。この幻想的なホテルを手がけたのは、世界初の「移動式ホテル」を構想したビジョナリー、ティエリー・テシエ氏。
モロッコの砂漠のはずれに位置するこのテラコッタ色の隠れ家では、庭園のように整えられた芝生や、ヤシ・柑橘類・甘く香るアーモンドの花が咲き誇る木陰で、心と体を癒すウェルネストリートメントやプライベートディナーが用意されます。
ダール・アラムで過ごす日々は、超パーソナライズされた体験を通して、ベルベル文化に深く触れられます。たとえば、伝統的なテントで星空の下に眠る体験、サハラでの夜明けのティーセレモニー、バラの谷へのローカルガイドによるトレッキング、12世紀から続く丘の上の村々への訪問など、まさにその地でしかできない特別な体験ばかりです。
スウェーデン語で「わが家」を意味する「エット・ヘム」は、その名のとおり、まるで自宅に帰ってきたかのような心地よさを提供する唯一無二のブティックホテル。オーナーのジャネット・ミックスと、英国の人気インテリアブランド「Studioilse」の創設者であり友人でもあるイルゼ・クロフォードの手によって生まれました。
場所は、ストックホルム・エステルマルム地区の緑豊かな住宅街、ラルクスターデン。アーツ・アンド・クラフツ様式のタウンハウスを舞台に、ゲストはまるで家族の一員のように迎えられます。
館内は、ヴィンテージやオーダーメイド、現代アートなどを絶妙にミックスした、洗練されつつもリラックスできる空間です。ホテルの「オープンキッチン」というコンセプトのもと、キッチンカウンターでシェフと語らいながらの食事、光がきらめくサンルーム、緑あふれる中庭など、くつろぎの時間を思い思いに楽しめます。
細部にまで行き届いた気配りと、先回りするようなホスピタリティはまるでスタッフが心を読んでいるかのよう。さらに、ジャネット・ミックス本人が執筆した「四季折々のストックホルム案内」がベッドサイドに置かれており、滞在の余韻を深めてくれます。
糸杉に縁取られたなだらかな丘陵地帯に抱かれるように佇む「レスキオ・ホテル」は、築1000年の古城を改装した唯一無二の隠れ家。建築家であるベネディクト・ボルツァ伯爵が、1940年代の葉タバコ倉庫を拠点に手がけた再生プロジェクト「B.B. for Reschio」のもと、1500ヘクタールもの壮麗な敷地に点在するオーダーメイドのファームハウスへと生まれ変わりました。場所は、ウンブリアとトスカーナの州境という美しいエリアです。
古城に足を踏み入れ、野生のイノシシや鹿が行き交う広大な敷地を歩けば、まるでルネサンス絵画の中に迷い込んだかのような感覚に。トリュフの森をアンダルシア馬に乗って駆け抜けたり、気品あふれるテントの中で馬術ショーを観賞したり、テニスを楽しんだり、ボートハウスから湖を漕ぎ出したり、さまざまな体験が可能です。ローマ時代を思わせるバスハウスで心身を癒し、古の見張り塔を活かしたプールバー付きの堀のようなプールで泳ぐこともできます。
とっておきの滞在を求めるなら、最も歴史ある塔の一角に位置する「タワースイート」が最適です。5階建てのスイートの屋上には、絶景を一望できる屋外の猫足バスタブも備わっており、まるで王族になったような非日常の世界が広がっています。
歴史の重みと建築美が息づく「カップ・ロカット」は、もともとパルマ湾を守るために建てられた旧軍事要塞を改装した、大人限定のラグジュアリーリトリート。マヨルカ島のカップ・エンデロカット岬にそびえ立ち、88エーカーの広大な敷地と2キロにわたる海岸線を有しています。
名高いマヨルカ出身の建築家アントニオ・オブラドールの手により、かつての砲台や防御施設は見事にスイートルームやバンカー、ドローブリッジへと生まれ変わり、断崖に刻まれたインフィニティプールからは地中海の絶景が広がります。
岩肌を深く掘り込んで造られた地下のハマム(トルコ式蒸気風呂)は、自然光が12メートル上から差し込み、黄金色に輝く塩水プールをやさしく照らします。ワイルドな雰囲気のプライベートビーチからは海へと直接アクセスでき、桟橋からはホテル所有のプライベートヨットに乗り込むことも可能です。
ダイニングもとても魅力的で、海辺に広がるオープンエアの「シー・クラブ」では、薪窯やグリルを使って調理されたマヨルカの郷土料理が味わえます。また、レストラン「ラ・フォルタレサ」では、地元の有機農場から届く旬の食材を使い、シェフ・ビクトル・ガルシアが革新的な技法で五感を刺激する美食体験を提供します。
アリゾナの太陽が降り注ぐキャニオン地帯に、天然温泉が湧き出すオアシスのようなこの隠れ家。キャッスル・ホット・スプリングスに足を踏み入れれば、その温泉の音と香りに包まれ、非日常の世界へ誘われます。星空観察が好きな方には「スカイビュー・キャビン」がおすすめ。緑豊かな敷地とソノラ砂漠を見渡す高台に建ち、ウッドデッキには天体望遠鏡と、源泉かけ流しの屋外バスタブが備わっています。
このブラッドショー山脈を背にしたリゾートでは、ウェルネスも野性味たっぷりです。
スパでは、ミネラルたっぷりの温泉を活かした専属セラピストによるオーダーメイドのトリートメントが受けられ、トロピカルなヤシの木に囲まれた渓谷の川辺では、天然のホットストーンを使った施術も体験できます。
滞在中には、SUP(スタンドアップパドル)を使ったヨガやガイド付きハイキング、心を整えるマインドフルネスのクラスなど、多彩なアクティビティが用意されています。また、自然のサイクルを生かして無駄を出さずに運営されている自家農園で育てた食材を使ったレストランで、環境に配慮した食事を楽しめるのも魅力のひとつです。
ウブドの山間部、ペタヌ川渓谷の急斜面に沿って建つヴィセロイ・バリは、まるで天空のジャングルに浮かぶかのよう。ヴィラにはすべてプライベートプールが備わり、朝もやが渓谷を包み込むなかで泳ぐ体験は、まるで夢の中にいるようです。
スパには眼下に渓谷を見渡す、曲線状に広がるバルコニーがあり、渓谷を一望しながら贅沢なトリートメントが受けられます。また、専属のヨガマスターが常駐しており、庭園やゲストヴィラでのプライベートセッションにも対応可能です。メインレストランは、バリ島屈指の名店として知られ、10メートルの草屋根と竹の天井が印象的な建築空間にあります。食材は敷地内の温室や地元のオーガニック農家から仕入れたものを使用しています。
朝は、丘の上にたなびく霧がゆっくりと晴れていく幻想的な光景とともに、ヴィラのプライベートプールで朝日を浴びながらのスイミングをお楽しみください。木々の間を飛び跳ねる猿たちや、ジャングル特有の生命の音に包まれながら、非日常の一日がはじまります。
ドロミテの山々に抱かれた「フォレスティス」は、かつてサナトリウム(療養施設)だった歴史を受け継ぎつつ、アルプスのウェルネス体験を極限まで高めたホテル。頂上レベルのサウナやケルト式ヨガ、雪山を望む岩風呂のインドア・アウトドアプールなどが整い、自然と一体化した静かな時間が流れます。
南チロルの自然に深く包まれた「タワースイート」や、1912年にオーストリア皇室のために建てられた、プレーゼ山の南斜面にひっそりと佇むアルペンヴィラで、森のエネルギーを感じながら完全なプライベートタイムを満喫できます。
フォレスティスの「森のキュイジーヌ」は、地元出身のエグゼクティブシェフ、ローランド・ランプレヒトが監修。幼少期から森や牧草地で過ごしてきた彼の自然への愛情が、料理の随所に表れています。周囲の森から採取したハーブ、木の実、ベリー、低木の枝や樹皮、モミの葉などのエッセンスを使い、ひと皿ひと皿がドロミテへのオマージュともいえる美しいアート作品として提供されます。森からの恵みを一皿一皿に込めた、芸術的で奥深い味わいです。
スイス・グシュタードの中心地、洗練されたブティックが並ぶプロムナード沿いに建つ「ル・グラン・ベルヴュー」は、馬車でスキー場へも行ける絶好の立地にある老舗ホテル。館内には、ファインダイニング、アールデコ調のバー、冬季限定の本格的なチーズ料理が味わえるフォンデュ専用の山小屋風レストラン、そして17ものエリアに分かれた広大なスパ(総面積3000平方メートル)など、季節を問わず屋内外での楽しみが満載です。
格式ばった雰囲気ではなく、陽気でリラックスした空気感も魅力のひとつ。アフタヌーンティーラウンジには巨大なボードゲームが置かれ、地下のバーには、地下バーにはカーペットのような素材で作られた特別なソファが置かれており、ソファの上で踊ることさえ歓迎されるような、自由で楽しい空間が広がっています。
サンパウロ随一の高級住宅街・ジャルジンス地区、洗練されたショッピングストリート「オスカー・フレイレ通り」沿いに位置する「エミリアーノ・サンパウロ」は、この街を象徴するラグジュアリーホテルです。ヘリポートも備えた圧巻の設備に加え、2階層に分かれた贅沢な「クーボ・スイート」では、リビングルームの中央に設けられた温水プライベートプールからサンパウロの街並みを180度一望できます。
おすすめは、2層構造の「クーボ・スイート」。リビングルームの真ん中に温水のプライベートプールがあり、そこからサンパウロの屋上風景を180度にわたって見渡すことができます。ホテルを一歩も出なくても、極上の体験が完結するのも魅力。地元でも有名な贅沢なブランチ、サンタペレ・スパでのくつろぎの時間、そして夜はブラジル初のシャンパン&キャビアバーで、80種類以上のシャンパンと希少なベルーガキャビアを楽しむという、贅を尽くしたひとときが待っています。
ニュージーランドのマールボロ・サウンズにひっそりと佇む、まさに秘境のリゾート。澄み切った冷たい海、入り組んだ入り江、そして原生林に囲まれた「ベイ・オブ・メニー・コーブス」は、野生動物との出会いにあふれた場所です。プライベートバルコニーからは、イルカやオットセイ、珍しい島の鳥たちの姿を望めます。カヤックやSUPを借りて海に繰り出せば、より近くで海の生き物たちとふれあえます。
あのキャプテン・クックも、この地域をお気に入りの停泊地として選んだほどの美しさ。ホテルから延びる6キロ以上のプライベートトレイルは、世界的に有名な「クイーン・シャーロット・トラック」にも歩いていけます。木のぬくもりが感じられる広々とした客室からは、緑豊かな森と静かな入り江が広がり、まるで世界から切り離された静寂に包まれているかのような感覚を味わえます。
クロエ・フロスト=スミス著