フィンランド・ラップランドの静寂に包まれた、ノルヴァヤルヴィ湖畔。スザンネ・フルベックモは、移ろいゆく光と表情豊かな自然に寄り添いながら、心身を解きほぐすリトリートをつくり上げました。1950年代に建てられた村の学校を丁寧に修復した「スカイラ・リトリート」は、SLHの「ウェルビーイング・コレクション」に名を連ねるホテル。北欧デザイン、古くから伝わるサウナの習慣、森の静けさを融合し、これまでとは異なる逃避のかたちを提案しています。そこは、誰かに大切にされていると感じながら、今この瞬間へと自分を取り戻していくための場所です。

スカイラ・リトリートの始まりについて教えてください。

CEOのミカ・ピトカマキは、もともと隣の区画に別荘を所有していました。以前は村の学校だった建物が売りに出されたとき、彼はまず、この地域の景観や雰囲気を守るために購入しました。これほど素晴らしい立地だからこそ、過度な開発から守り、より小規模で、周囲への配慮を大切にしたものにしたいと考えたのです。

私たちはすでに別の事業でもパートナーとして仕事をしていましたが、この構想はゆっくりと形になっていきました。ほかの仕事との両立を続けるなかで、パンデミックによってスケジュールも、その周囲を取り巻く環境も大きく変わりました。ようやくこのプロジェクトに本格的に戻った頃には、人々が求めるものも変化していたのです。旅行者は、プライバシーやゆとり、自然、そして見せるためではなく、心身を癒やしてくれるような体験を求めるようになっていました。また、ロヴァニエミの観光も急速に発展していたのです。私たちは、より親密で、心と体の両方に寄り添う場所が必要とされていると感じました。

具体的な計画を始めたとき、私は敷地内のさまざまな場所に何時間も座り、それぞれのキャビンを建てる場所では雪の上に横になって、その場所がどのような雰囲気を持つのかを確かめたのです。かつての学校の校庭と運動場を活用することで、森を伐採することなく宿泊施設を配置。そして、ノルヴァヤルヴィには、誰もが体験したくなるような、魔法のような光と静けさがあったのです。

この場所ならではの風景や文化について教えてください

この場所を理解するには、「ラップランド」という言葉が同時にいくつもの意味を持つことを知っておくとよいでしょう。ラップランドはフィンランドの行政地域である一方、雪や大自然、クリスマス、オーロラを連想させる、世界的に知られた観光地でもあります。そのなかには、私たちが暮らすペラポホヨラのような、より古くから続く文化的な地域もあります。また、北部一帯は、先住民族サーミの故郷であり、複数の国にまたがって広がるサーミ地域「サーミ(Sápmi)」とも重なっているのです。

スカイラは、ロヴァニエミの北西約17km、ノルヴァヤルヴィ湖の北岸に位置しています。ロヴァニエミは、海外からは人里離れた北極圏の観光地として紹介されることが多いですが、ここに暮らす私たちにとっては、活気ある地域の中心都市でもあります。何世代にもわたって旅行者を迎えてきた土地であり、おもてなしの文化はこの地域に深く根付いているのです。

ノルヴァヤルヴィには、また別の土地の暮らしがあります。ロヴァニエミ周辺でも大きな湖のひとつで、その面積は約1,180ヘクタール。湖畔には、多くの地元の家族がコテージを所有しているのです。別荘が数多く建ち並ぶことから、私たちは冗談交じりに「ロヴァニエミのハンプトンズ」と呼ぶこともあります。ただし、ここでの華やかさといえば、ウールの靴下とサウナ、といったところでしょうか。

かつての村の学校には、この土地の歴史が今も息づいています。1952年に地元の丸太を使って建てられ、何世代もの子どもたちが学んだほか、村全体の集会所としても使われていました。この建物は、戦後のラップランドの歴史の一部でもあります。ロヴァニエミとその周辺地域は、ラップランド戦争による破壊から復興を進めていた時代でした。

この土地の自然を特徴づけているのは、絶え間ない変化です。冬は極夜とともに始まり、水が凍り、最初の雪が降ります。やがて深い青色の光と大量の雪に包まれ、凍った湖の上を歩いたり、スキーをしたり、満天の空の下で釣りを楽しんだりできるようになります。秋から春にかけては、リトリートの真上にオーロラが現れることも多く、開けた湖が、ひときわ美しい眺望をもたらすのです。春にはまばゆい光とともに日が長くなり、夏には白夜と光に満ちた夜が訪れます。そして秋には「ルスカ(ruska)」と呼ばれる季節を迎え、森が赤や黄土色、黄金色へと染まります。ラップランドでは、気温の変化と同じくらい、光の変化が重要です。それは人々の暮らしや移動、そして時間の捉え方そのものを形づくっているのです。

「ここには、強いつながりが感じられます。何世代にもわたって人々がこの湖のほとりで暮らし、かつて子どもたちはここへ通い、今では私たちのレストランとなっている場所に村人たちが集まっていました。」

あなたにとって、良いホテルとはどのようなものでしょうか?

私にとって良いホテルとは、ゲストが触れるすべてのものに意味があるホテルです。到着して荷物をどこに置くのか、チェックインをどのようにするのか、水がどこに用意されているのか、そして一日のなかで照明がどのように変化するのか。空間の流れが直感的に感じられることが大切です。こうしたことは、一つひとつを見れば小さなことに思えるかもしれません。しかし、それらが積み重なることで、ゲストが本当にリラックスできるかどうかが決まります。

何よりも、良いホテルとは、心地よく眠るためにつくられた場所です。人々は休むためにホテルを訪れます。だからこそ、質の高いベッド、適切な枕や掛け布団、考え抜かれた照明、静かな環境、そして睡眠の健康に対する理解は、基本的な要素であるべきです。特に、私たちのようなウェルネスホテルではなおさらだと考えています。睡眠はシンプルでありながら、心身を回復させるうえで、最も大切なもののひ とつです。

美しい環境をつくり、それを「ラグジュアリー」と呼ぶだけでは、本当のラグジュアリーは生まれません。また、優れたサービスとは、技術的な正確さや形式だけを意味するものでもありません。それは、深い共感をさまざまな形で表現することです。デザイン、サービス、言葉、そしてゲストが必要とするものをチームが先回りして考える姿勢。そのすべてに共感が表れている必要があります。空間もサービスも、最初の段階からその共感を中心に設計されなければなりません。

ゲストにどのような感覚を味わってほしいと思いましたか?

まず人の心を動かすのは、その空間に「自分がいていい」と感じられるかどうかだと思います。私は、人を場違いな気持ちにさせたり、疎外感を抱かせたりする環境が好きではありません。服装が華美すぎる、あるいはカジュアルすぎる、体型が合わない、疲れている、あるいはその場所にふさわしいほど洗練されていない、そんな理由で居心地の悪さを感じるような場所です。

スカイラで私がつくりたかったのは、「本当に大切にされている」と感じられる感覚です。誰かがあなたのことを考え、好みや必要としているものを理解し、到着する前から準備してくれている。すべては「ケア」という考えにつながっています。

その思いは、空間の美しさにも表れています。私は美しいものに心惹かれるタイプで、美しさには目を休ませる場所をつくる力があると考えているのです。ただし、ここでの美しさは、素朴で少しボヘミアンなものです。古い建物と、ラップランドの周囲に広がるありのままの自然によって形づくられています。中綿入りの冬用パンツを履いていても、カクテルドレスを着ていても、同じようにくつろげる場所であってほしい。スカイラでは、気取る必要はありません。

今日、サステナビリティとはどのようなものだと考えていますか?

「サステナビリティ」という言葉は、とても幅広い意味を持つようになりました。そのため、タオルの使用についての案内を掲示したり、いくつかのプラスチック製品をなくしたりといった、目に見える取り組みの集合として捉えられてしまうこともあります。もちろん、そうした選択も重要です。しかし、本当の意味でのサステナビリティは、ホテルにおけるあらゆる意思決定のあり方そのものに反映されなければなりません。

ホテルは、さまざまな資源を消費する場所です。建物を暖め、水や電気を使い、リネンを洗い、食事をつくり、アメニティを購入し、人や物を移動させ、廃棄物を生み出します。だからこそ、まず向き合うべきなのは、こうした仕組みをありのままに見つめ直すことです。

スカイラで私たちが下した最も重要な決断は、「すでに存在するものを活用する」ことでした。かつての村の学校を取り壊すのではなく、もともとの丸太造りの構造を3年かけて手作業で明らかにし、保存したうえで、現代の快適性とエネルギー効率に合わせて改修しました。新たに建てた丸太造りの建物も、長く使えることと、厳しい北極圏の気候に対応できることを考えて設計しています。現代的な断熱性能やエネルギー効率の高いシステムを取り入れ、頻繁に交換するのではなく、年月とともに味わいを増すような耐久性のある素材を選びました。また、宿泊施設はかつての学校の運動場に配置しました。目の前に広がる既存の森を伐採することなく、宿泊施設を開発するためです。

食も、ホテルがすぐに変化を生み出せる分野のひとつです。私たちのメニューは季節感を大切にし、北欧の食材を中心に、廃棄をほぼゼロにすることを目指しています。フィンランドの生産者や地元のガイド、専門家たちと協力することで、地域に培われてきた知識を生かし、経済的な価値を地域に還元することが可能です。そして、その土地に根差した体験を生み出すことで、ゲストが自分のいる場所について本当に理解できるようになります。

かし、サステナビリティをめぐる議論は、次の段階として「社会」と「人」に目を向けるべきだと私は考えています。建物のエネルギー効率が高いというだけで、ホテルをサステナブルと呼ぶことはできません。人々がどのように雇用され、支えられているのか。どのようにパートナーシップを築いているのか。経済的な恩恵を受けるのは誰なのか。そして、その土地に暮らす地域社会が、今もなお「ここは自分たちの場所だ」と感じられるのか。

本当の意味でのサステナビリティとは、宿泊客だけでなく、その先にいる人々にもホスピタリティを届けることです。そこで働く人々への配慮、共に暮らす地域社会への配慮、託された建物と歴史への配慮、そして私たちがいなくなった後も残り続ける自然や景観への配慮。それらすべてを含めて、ホスピタリティを広げていくことこそが、サステナビリティなのだと思います。