シチリアには、どこか心に残るものがあります。肌に感じる空気や、カメラロールに残る風景、そして気づけばブリオッシュにまでこだわりを持ってしまう自分に気づく瞬間があるのです。
この島はコントラストに満ちています。火山の崖と柑橘畑、剥げかけたペンキと磨き上げられた大理石。1950年代から変わっていないような老舗カフェの隣で、プラスチック皿に盛られたウニを食べるような場所です。
そして、料理が心に深く刻まれます。
マドニエ山地のモッツァレラや、太陽をいっぱいに浴びたトマト。
素材はとてもシンプルなのに、なぜかここでは格別に感じられます。
朝食は急いで食べるものではありません。
グラニータとブリオッシュを、日が昇って気温が上がるのを感じながらゆっくり味わいます。アーモンド味は香ばしく粒立ちがあり、ピスタチオ味はさらに上品で、上にクリームをのせてくれるお店を見つけたら、それはもう大当たりです。
そして賑やかに、季節と気分に合わせて楽しみます。
飾り気はなく、ただ誇りがあります。
その日のお皿に何がのるかは、場所と作る人、そしてその朝の新鮮な食材次第です。
立ち食いが基本です。
蛍光灯の下、通りの片隅で会話を交わしながら食べるのがシチリア流です。
「パーネ・カ・メウサ」(脾臓サンド)は、アレンジされることもなく、ただそこにある食べ物です。
アランチーニ(ライスコロッケ)は熱々すぎるとわかっていても待てず、外はカリッと、中はマグマのように熱く、それでも食べる価値があります。
市場はインスタ映えのための場所ではなく、まさに生きている空間。
男たちはサボテンの実の箱の上で値段を叫び、観光客と地元の人が同じ細い路地を行き交います。
露店の人たちは半ば強引に試食を差し出し、あなたもつい受け取ってしまいます。混沌としていますが、それがまた完璧なのです。


トラットリアでは、少し落ち着いた時間が流れます。
「パスタ・アッラ・ノルマ」はどこでも見かける定番料理で、揚げナス、甘いトマト、塩気のあるリコッタチーズが特徴です。
オルティージャ(Ortigia)では、レモンとオリーブオイルで味付けしたメカジキが名物です。
野生のフェンネル、松の実、レーズンは島中の料理で使われ、パン粉と柑橘で包んだイワシ「サルデ・ア・ベッカフィーコ」は庶民的でどこでも味わえます。


本物のカンノーロは、食べる直前にリコッタクリームを詰めます。
冷たく、ふんわりとした口当たりです。
最初からクリームが入っているものは、もはや罪といえるほど。
誰かを感心させようとしていない、それがシチリアらしいおいしさの秘密です。
寝る前から、もう朝食が待ち遠しくなります。
ピスタチオのクロワッサン、アーモンドのグラニータ、焼きたてのブリオッシュ。
家では朝食をとらない人でも、そうなってしまうでしょう。
コーヒーの飲み方さえ変わります。
3回目の「オートミルク??(まるでおばあちゃんを侮辱したような表情で)」を聞いたころには、もう頼まなくなります。
シチリアでは、馬肉料理にも挑戦してみます。「郷に入っては郷に従え」です。好みは分かれますが、シチリアの男性は気にも留めません。
帰る頃には、お腹も心も満たされ、少し日焼けし、そして静かにこの島に夢中になってしまいます。
食べ物だけでなく、シチリアという場所そのものに心を奪われてしまいます。






