休むことを知らない疲れ切った世界では、本当の休息は贅沢であると同時に、必要不可欠なものとなっています。SLHのウェルビーイング・コレクションに選ばれた各ホテルは、現代の落ち着きを失った旅人の心に寄り添い、スパを超えて心身を整え、回復させるための特別な空間を提供しています。
ウェルネス業界の専門家による審査員団(著名なスパ編集者スーザン・ダーシーやBeSophro創設者ドミニク・アンティリオら)が厳選したこれらの滞在先は、単なる「一時停止」ではなく、エネルギーを取り戻し、大切なものと再びつながり、持続的なレジリエンスを育む「場所の力」を与えてくれるものです。ここでは、スーザン・ダーシーが心と体をリセットするのに最適なウェルビーイングホテルを紹介します。
人工知能(AI)が世界を席巻している一方で、ウェルネスの世界ではその対極にある「感情的知性(EI)」に注目が集まっています。EIは、私たちが仕事や人生を成功させるために欠かせない要素で、人間関係の構築から合理的な意思決定に至るまで、あらゆる場面に影響を与えているのが現実です。健康で長寿な人生を送るための内面的なバランスを築く上でも不可欠です。しかし、現代社会では自分の感情とつながる力が急速に失われつつあります。
経済的不安や気候への不安、国際的な対立などが渦巻く24時間稼働の世界で、EIを養うための時間や空間、支え合う環境を見つけるのはますます難しくなっています。
だからこそ、今こそ「休息」に特化した空間が求められており、ウェルビーイング・コレクションの誕生は絶好のタイミングといえるでしょう。
ここで紹介するのは、直感的に人を導くチームと卓越したロケーションを備え、私たちを心身ともに360度リチャージしてくれる場所です。これらのリゾートは、セラピーや栄養ある食事、オーダーメイドのフィットネスや創造的なアクティビティを超えて、健康を長期的に持続させるための実践的な知恵を、そして何よりも「喜び」とともに提供してくれます。
ウェルビーイングは真剣なテーマですが、これらのホテルを選べば、同時に心躍る体験となるはずです。


ベトナムの伝統医学は14世紀に遡る歴史を持ちながら、長い間あまり注目されてきませんでした。しかし、この革新的なスパの登場によって光が当たり始めています。ナミア・リバー・リトリートでは、ゲストが実際にベトナムのヒーラーの自宅を訪れ、同国のウェルビーイングの知恵を体験できます。呼吸法のベトナム版である「ズオン・シン」や、顔のリフレクソロジーである「ディエン・チャン」などが紹介されているのです。
同時に、ここは現代的な設備も完備。洗練されたインテリアには、昼夜のリズムをやさしく再現するサーカディアンリズム照明システムが組み込まれており、起きるべき時間と眠るべき時間を自然に導いてくれます。
ハマムやサウナ、コールドプランジ、ハイドロセラピーといった定番に加え、毎日の90分ウェルネス・リチュアルや、願いを込める「ウィッシングツリー」セレモニー、地元の水路を進むパドルボート、ニパ椰子林を抜ける自転車ツアーも用意されています。さらに特筆すべきはその立地。ユネスコ世界遺産に登録された港町ホイアンの近くにある、緑豊かな小島に静かに佇んでいます。混雑しやすいホイアンのランタン祭りを楽しんだ後、無料のボートシャトルですぐに静寂の地に戻れることは、心身にとって大きな癒しとなるでしょう。


チロルアルプスの人里離れた谷間に佇む、超スタイリッシュな隠れ家リトリート。ここではあえて「構造化しない」アプローチを取り入れ、ゲスト一人ひとりが自分に合ったペースで自然に健康を取り戻せる旅になるよう工夫されています。
そのプロセスに大きな役割を果たしているのが立地です。山の斜面に立つこのリゾートは、ストレスを和らげる森や静かな湖に囲まれ、回復を促す沈黙に包まれています。
アプローチは控えめですが、その効果は驚くほど強力です。伝統的なヨガや呼吸法、森林浴に加え、三つの美しいプールでの入浴、トウヒやフィンランド式のサウナ、滝の下でのロックシャワー、地球の周波数に合わせた音波によるディープリラクゼーションなどを体験できます。さらに意外な挑戦として、苔むした森を裸足で歩くハイキングや、雪の結晶を読み解くテクニックの学びに参加可能です。
瞑想のスタイルも一風変わっており、陶芸クラスに参加して作品に集中することで、自然と心が空白になっていく体験が用意されています。完成した作品は焼成され、自宅に届けられるので最高のお土産になるでしょう。テレビが部屋にないことも、WiFiがリクエスト制で限定的であることも、この自然環境の中では、むしろ心地よく感じられるはずです。
ペロポネソス半島にある洗練されたホリスティック・リゾート。ここでは「西洋医学の父」と呼ばれるヒポクラテスの教えを、伝統的な中国医学や最新のテクノロジーと融合させ、効果的でありながら深いリラクゼーションを伴うウェルネスプログラムを提供しています。
ユーフォリア・リトリートのプログラムは実に幅広く、緑に囲まれた屋外の劇場やオリーブ畑で行う「グリーンセラピー」中心のフィットネスウィーク、詳細な医療検査をもとに作成される長寿のための個別改善プランなどを受けられるでしょう。さらに、国際的に名高い代謝医学の専門家ジョージ・レオン博士と共同で開発された食事プログラムでは、ギリシャ料理をベースにしながらも、心疾患や脳卒中、糖尿病といった深刻なリスクを防ぐことを目的としたメニューが提供されています。
美しさも大切にしており、修道院風のアーチやヴォールト天井を取り入れたデザインのスパ施設は数々の賞を受賞。なかでもドーム型の巨大プールは圧巻で、まるで宇宙船に飛び込むような感覚で心身を解き放てるでしょう。
ヨガデッキからそのままユーフォリア所有の松林へと散策でき、近くにはユネスコ世界遺産のビザンチン都市ミストラスや、壮大なタイゲトス山があり、自然と歴史の両方を体験できるのも魅力です。ここでは一日中ハイキングしても誰とも出会わないほどの静寂を味わえます。魂の休息と専門性に裏打ちされたケア、その両方を兼ね備えた稀有な場所です。


ソノラ砂漠という魂を癒す大地で、その魅力を最も堪能できるのは、天然の温泉が湧くヒーリングプールに浸かっているときです。近年注目を集めている「コントラスト療法」(温冷交代浴)ですが、ここでは実は1890年代から行われていました。温泉で温まり、冷水に浸かり、深呼吸してリラックスする、その繰り返しで心身の緊張が解けていきます。
1,100エーカーの広大な敷地では、ハイキングやサイクリングによる自然での回復運動が可能。ヨガや絵画、ガーデニングといったマインドフルなアクティビティもあり、アリゾナ初の「ヴィア・フェラータ(岩場登攀コース)」というスリル満点の挑戦も楽しめます。疲れた身体は極上のマッサージや、水中ストレッチの「ワッツ(Watsu)」で癒してください。
敷地内の農園ツアーもおすすめで、畑から食卓までのつながりを実感できます。デジタルデトックスは強制されませんが、WiFiのパスワードが「RUsureUwant2(本当に使いたい?)」であることが、この場所の哲学を物語っています。滞在を終えるころには、リフレッシュし、再びサルベーション・ピークを登りたくなるほど元気になっているでしょう。


日常の喧騒を離れ、南チロルの壮大な山々に包まれた静けさの中でウェルビーイングを取り戻せる場所。ミラモンティ・ブティック・ホテルのスパは、その恵まれた自然環境を最大限に活かした設計で、温水プールやジャグジーに浸りながら、あるいはガラス張りの森のサウナやリラクゼーションラウンジで、息を呑むような眺めを楽しめます。この環境そのものが、ストレスや不安を自然に取り去り、自由で穏やかな気持ちを育んでくれます。
究極のラグジュアリー体験としておすすめなのが、リゾートから少し離れた特別な場所で過ごす「ルーフトップ・テント宿泊」。ランドローバーの屋上に設置された豪華テントで一夜を明かすというものです。ピクニックハンパーに入った夕食と焚き火用の薪が手渡され、夜空の下で会話や静寂を楽しめます。
さらに、パラグライダーやヴィア・フェラータといったスリルあふれる体験から、馬そりやホットストーンマッサージといった落ち着いた過ごし方まで選べます。三つのレストランでは、ミシュラン星付きシェフが手掛ける郷土料理や世界各国の料理をお楽しみください。ちなみに、この地は映画「007 私を愛したスパイ」の撮影地としても知られ、あなた自身も「行動を起こすように」インスパイアされて帰路につくことでしょう。
SLHウェルビーイング・コレクションの全貌もぜひご覧ください。穀物を使った儀式に根ざしたポルトガルの古い米農場から、僧侶とともに瞑想を学べるヒマラヤの隠れ家まで、心身を根本から整える宿が揃っています。
これらはすべて、直感的なホスピタリティと特別なロケーションを備え、肉体・精神・感情・創造性を含むあらゆる側面から私たちを再充電へと導いてくれる場所なのです。
スーザン・ダーシー著